個性と理論は共存できるはず。
はい。今日は「実践的なコードワークの作り方を教えてください。」という質問に答えてみたいと思います。
この問題は「卵が先か鶏が先か」的問題です。人により見解が異なります。以降は私見です。留意してください。
実践的なコードワークを作るということは、思考/構築のプロセスが大事になってきます。
理論的視点に立てば解釈は簡単です。たとえば以前のカデンツの記事などはまさにそれですが、西洋音楽の理論に従って書けば十二平均律上で不自然な響きになることは少ないです。ですがそれを守りすぎると和声課題のようになってしまいます。つまり没個性化に繋がると危惧する方も多いですし、私もそう思います。
つまりは、理論と個性のバランスの取り方=実践的なコードワークを生む方法だと思います。
例えば、ベースラインクリシェで考えてみる。
例えば、曲にクリシェをいれようかなぁ。と考えたとしましょう。
今回はベースラインにクリシェをもってきます。クリシェとは、半音階やスケールの音程差などを守って音が順番に上行/下降する音の動きを言います。
通常ベースラインクリシェを作る場合は、転回系を使用するケースが多くなります。
説明のためキーはCで統一します。
理論的ベースラインクリシェの志向
まず、理論的に考えます。
ベースラインクリシェは、短くとも長くともその効果は非常に心地よいものです。ですがそれが長引きだすとそのノリが変るタイミングと変り方が非常に難しくなります。
逆に言えば長引くほど、対比となるモノを作るのが難しくなる傾向にあります。故にまずはある曲においてどのような区間で取り入れるのかを考えたほうが良いでしょう。
それから、固有和音(ダイアトニック)でやるか準固有和音などの固有和音以外も(ノンダイアトニックとほぼ同義)含むかも需要です。
固有和音のみの場合
必然的に長いクリシェをやる場合は、スケールクリシェが一般的になります。そして固有和音ですので長く続けても意外と平気です。
ダイアトニックを用いる以上、理論的思考の場合カデンツを意識する必要があります。ではA~Cまでのベースラインスケールクリシェにカデンツを守りながら上三声をつけてみます。
◆音源◆
◆MIDIロール/Am7>G>G7onF>ConE>GonD>C◆

はい、カデンツも守られています。おかしくは聞こえないはずです。スケールノートに順じて下降していくベースラインが印象的に聞こえてくると思います。また和音機能も古典的な解釈を用いています。
固有和音以外も含む場合
理論上変るところはありません。カデンツを順守しつつ借用和音などを入れていきます。
今度は主調外の音も取り入れて半音階的(クロマテック的)なベースラインクリシェを目指してみます。
◆音源◆
◆MIDIロール/F△7>ConE>CmonE♭>Dm7>D♭7>C△7◆

こちらもこんなカンジです。
理論的順守が強めに見られるような進行ですね。やっぱりちょっと硬いです。ですがスケールクリシェに比べクロマテックなベースラインは滑らかでどこかかっこいいですよね。
個性的ベースラインクリシェの志向
では対極である感覚を重視する方向でやってみます。
こっちは用はベースがクリシェになってりゃOKでよくない?的なニュアンスで行きます。
弱進行など、なかば強引な進行でもいいじゃん。という解釈でいきます。
あくまで調性を維持しつつ、より多くの可能性を考える。
この視点から考察する場合、スケール自体がそもそもかなり調和的という解釈が重要です。
故にスケールクリシェをやる場合アヴォイドにさえ気をつけておけば後は何やっても別に大丈夫という非常に高い自由度が得られます。
それすらも無視したとしても一瞬ならすこし濁るだけですので大して問題ないケースも存在します。が、私は一応個性的とはいえ調性曲をやる場合には意識すべきだと考えますのでアヴォイドだけは注意したほうが良いと思います。
Cコードを鳴らし続けてスケールクリシェを取り入れた進行を聞いていただきます。キーCですので下属音であるFがアヴォイドになりますのでそこだけはCsus4に変えて乗り切ってみましょう。アヴォイド等についてはリハーモナイズの記事で扱っています。
◆音源◆
◆MIDIロール

と、いう具合に別におかしくはなりません。これはスケールが守られておりアヴォイドが基本的になければ、半ば強引な転回系でも不自然に聞こえないというある種の証明です。
もっと柔軟に対処したい場合は、コードの3thを演奏しないパワーコード等ロック的な考え方になっていきますが、スケールだけ守っていれば実際ほとんどのポピュラーな音楽は成立して今います。
つまり、この考え方でコードワークを作る場合、アヴォイド、それから調を見失うほど唐突な和音を使わない限りは問題ないのです。これは・・・○○の第一転回系だから・・・とか考えずに演奏して気持ちよければそれでいいというような解釈で大丈夫です。
では、もっと自由に理論を無視してみたい。と言う場合はどうなるのか?
さてしかしながら、個性を出すために理論なんかいらない。というところまで行くとします。
ですが、これをやると文字どうりの調性が崩壊の方向に向かいます。そういった音楽を書きたいのであれば「わざと調性を狂わせる能力」が必要になります。
実はこれは非常に難しいです。不協和を維持するためにはその空気感を損なわないようにしなければなりません。
つまり、拍節や拍子など含め崩したり、あえて強烈な響きを続ける必要ながあります。そうしないと滅茶苦茶な曲になります。
この例を示すのは本当に難しいのですが・・・。
例えばこんな音だと・・・。
どうでしょうか?へたっぴというか無茶苦茶というか統一感がない感じがしませんか?これは一部調性的で、一部非調性的な部分が交互に出てくるためただ単に間違っているようにしか聞こえないのです。よく聞くと分かっていただけると思いますが、一応ベースラインはクリシェしてます。
これでは、流石に曲のベースに用いるのはあまり好ましいとはいえません。
ちなみに即興で現代曲のワンフレーズでも作ってみました。音大時代を思い出します。わざと調性を崩し続けて曲にしていきます。
どうでしょうか?さっきに比べて、もちろん調整的な響きや拍節は感じなくても何となく全体的に統率が取れていませんか?これが適当すぎて怒られそうですが現代音楽的な響きになります。
のように、理論を無視していけばいくほどに調性感は失われ前衛的/先鋭的な響きになって行きます。
まとめ
はい、いかがでしたでしょうか?
実践的なコードワークを作るというのは最終的に作曲家の裁量が大事になります。
理論ばかりだと硬くなりますし、個性優先させすぎると調性がドンドン崩れていき、一つにまとめ上げるのが大変になります。
そのバランスをとりながら考えて、実際に鳴らしてみて判断していく方法が一番良いと思います。